コラム1:猿侯寺巳寅とアリスについて
巳寅は魔術師であると同時に画家である。アリスは彼の創作の少女であり、つまりは自分で
描いた絵の少女に惚れてしまったわけである。まさに自画自賛。
アリスは最初に彼が描いた「アリス像」という絵に宿っている悪魔であり。「アリス像」がこの世界
における彼女の本体。その他の途中にあるものは後に描かれた作品で「OOとアリス」のような名前
がついておりその絵を介して移動することが出来る。
「二十年前の一家惨殺」という噂は巳寅が捏造したもので、魔術的な方法で地域住民の記憶に植え付
けた。言霊の名の通り言葉には魂が宿る。言葉には少なからず魔術的、呪詛的側面がある。
同時に怪現象を起こすことで住民を遠ざけたが、代わりにロングソードメンバーのような物好きが集
まるのは当然の結果といえる。今までにもこのような輩は存在したが、すべて行方不明となっている。
きっとあの洋館で殺されて、未だにさまよっていることだろう。
そこまですれば警察だの、役所だのが出てきそうなものだが、そこはそれ。噂による結界だけでなく、
もう一重の結界を張っていた。荒廃が言っていたように「あの建物に目をつけるだけでも大したもの」
なのだ。そこにありながら、気にしない。意識から遠ざけるタイプの結界である。
彼の目的は「アリスと自分のための世界を作ること」であるが、それは難しい。このキャンペーンには
神話に登場する神々・悪魔の名を持つNPCが多数登場する。彼、彼女らはその性格や思想をある程度
受け継いでいるが、猿侯寺巳寅はゾロアスター教に登場するいわゆるミトラ神ではない。猿の頭に虎の体、
蛇を尾にもつヌエこそが彼の名の暗示する悪魔である。
ヌエ(鵺)は世阿弥作の能「鵺」に登場する妖怪で、夜な夜な鳴いて帝を悩ませるが源頼政によって
射落とされ、体を裂いて川に流されたというのがもっとも有名なもの。この舞台は二条城のあたりらしいが、鵺塚と
いうのは各地にあるらしいので、わりとメジャーな妖怪であったようだ。鵺は特別なにか悪さをするというものでは
なく、ただ「鳴いて人々を不安にさせる」というものである。その当時の世相なんかによる人々の不安を象徴するもの
なのだろう。このキャンペーンでも鵺たる巳寅は単なる不吉の象徴として登場させている。